ハッスルおばあちゃんのアルゼンチン日記


by ruriwada

瑠璃通信40  アルゼンチンのプチブル

 暮れの30日、ブエノスアイレス市の北方にあるガリンと言う町に住むC家に昼食に招待された。車で高速で約一時間、ピラール市の少し手前だ。C家にはこれまでにも2度行った事があり、二度とも車での送り迎えだったが、今回は遠慮してバスで行くことにした。
幸い、家のすぐそばの57番のバス停から、ピラール行きのラピド(急行)とセミラピド(準急)バスが出ている。ブエノスアイレスのバスには普通はエアコンはついてないが、ラピドやセミにはついているので快適だ。
ところが何故か、夫が通うモレノ行きのラピドだけは、同じ57番のバスで料金も同じなのにエアコンがついてない。車体もどれもチョーオンボロで、毎日このオンボロバスに1時間ゆられている夫は「モレノ行きには一番悪いのを回してるんじゃないのか。差別だ」と、いつも憤慨している。モレノ市内を走るバスも何故かレトロなのが多いそうだ。
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          モレノ市内を走るレトロバス
 話が逸れたが、バスが出発してすぐ、夫に「今バスに乗ったとCさんに電話した方がいいんじゃない?」と言うと、夫は「あ!、名刺も手帳も持ってくるの忘れた!」「え?じゃあ、住所も電話番号も分からないの?」「ウン」
「・・・」絶句。夫のケータイにも登録されていない。
「どうする?途中で降りて戻る?」「迎えに来てくれるから大丈夫だよ」
「今日から夏時間になったのよ。もし、Cさんが勘違いしてたら?」
夫はバツが悪いのか無言。ま、先のことを心配してもしょうがないと開き直って、運を天にまかせることにした。
高速の料金所を過ぎると、バスはハイウェイを停留所毎に一般道路に下りては又ハイウエイに上る、を繰り返し始めた。夫は乗るとき運転手に行き先を書いた紙を見せて、知らせてくれるように頼んでいたのだが、一向に案内がない。
「おかしいなあ・・車で来た時はもっと近くだったような気がしたけど・・」と夫に言うと、「大丈夫だ、まだまだ先だ」と言う。
念のために後部座席の人に聞くと、「もう通り過ぎた」と言う返事。あわてて運転手に聞きに行くと、運転手、しまったと言う顔をして
「忘れてた。次で降りて、ハイウェイの反対側から乗って二つ戻れ」
もちろん、謝罪の言葉もない。アルゼンチンでは謝罪の言葉を期待する方が間違ってる。
外は38℃の炎天下。おまけに張り切ってユカタなぞ着てきたからたまらない。汗だくでハイウェイの下をくぐり、日差しを遮るものが何もないバス停で待つこと20分。
一緒に乗った人達が「ガリンで下してやってくれ」と運転手に頼んでくれて、運転手も「次はガリン」、と大声で知らせてくれて、やっと目的地に到着。またまたハイウェイの下を歩いて反対方面のバス停に行く。
 バス停近くに停めた車の中でCさんが電話をかけていた。私達の顔を見てほっとした様子。何度もケータイに電話したがつながらなかったと言う。変だなあ、一度も鳴らなかったけど・・
「もう一度かけて見て下さい」と頼むとかけてくれたが音が聞こえない。ケータイはスペイン語なので、Cさんに見てもらうと、無音に設定されていた。まったく、もう。
 C家の住むコミユニティは数百軒の家の周りを鉄条網で囲い、ゲートは24時間ガードマンのいる、プチブルの住宅地だ。どの家も数百坪の敷地でパティオとプール付き。コミュニティの中では塀がなく、隣家との境も樹木である。
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                       C家のパティオ
Cさんは中小規模の会社社長、夫人は銀行員のキャリアウーマンで、二人とも英語が堪能だ。アルゼンチンでは英語を話すことがステータスシンボルの一つだそうだ。
ご夫婦ともスペイン系で、家の作りもスペイン風の白い建物。家の中心にパティオがあり、その周りを部屋がぐるりと取り囲んでいる。
パティオの隅にアサドを焼く大きなグリルがあり、側に屋根だけの10人ぐらい用のオープンダイニング。勿論家の中にも大きなダイニングがある。
住み込みのメイドが一人と、時々来る通いのメイドが一人。メイドがいるのはアルゼンチンではごく当たり前のことだそうだ。
小人数の食事ではさすが本格的なアサドはせず、二回ともチョリソーだったが、今回はカツオ1匹を丸焼きして供して下さった。カツオの丸焼きとは日本人にはない発想だが、とても美味しかった。夫人は日本料理が大好きで、先日寿司を作ったと嬉しそうに言う。
夫人はまた、夜遅いのが苦手だと聞いて笑ってしまった。
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                       C家の庭のプール
 C家には6才の男の子と2才の女の子がいる。男の子に日本からの刀の玩具を上げると「にんじゃ、にんじゃ」と大喜びで、パパを切る真似をしたりして遊びだした。お兄ちゃんは忍者が大好きなのだ。
2才の女の子は活発で、おとなしいお兄ちゃんはやられっぱなし。妹のことを「カミカゼ」と呼んでいる。
 このコミュニティの中に1軒高層のビルが建築中だ。Cさんが「あれはどういう人が買うと思うか?」とにやにやして私に尋ねる。
「分かりません」と降参したら、
「このコミュニティーの住人は最初は若い人ばっかりだったが、年数が経ったので、離婚するカップルが出始めた。離婚で家を妻子に明け渡したお父さん達が子供達の近くに住みたいので買うのだ」と言う。
何とまあ。気の毒やら可笑しいやら。でも、Cさん、そんな他人事みたいなこと言っていていいの?
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                       C家の庭
いざ帰るだんになって、バス用のコインをすぐ出せるようにしておこうとバッグの中を見ると小銭入れがない! 一瞬頭の中が真っ白。やられた。でも一体どこで?呆然としてる私を見て、C夫妻が「どうしたの?」と心配そうに聞く。
中身は2千円ほどだからまあいいとして、帰りのバスのコインがない。夫の財布には紙幣が入っていたが、コインの方は来る時全部だしてしまった。バスはコインしか使えないし、遠いから2人で1ペソコイン10個が必要なのだ。
Cさんが「両替して上げなさい」と、忍者君に言うと、忍者君が30センチ四方の箱を持ってきた。中にはコインが一杯。慢性コイン不足病のブエノスアイレスではまさに宝の箱。
思わず「うわあ!」と歓声を上げると、Cさんが笑いながら、
「私や妻が買い物から帰ると、お釣りのコインを全部さっとかっさらって、これに入れてしまうんですよ」
さすが経営者の子。こんな小さいうちから蓄財の才抜群だ。親も親。日本の家庭だったら、そんなことをしたら、大目玉を食らうだろう。まさに所変われば・・
さて、家に帰ってみれば、掏られた筈の私の小銭入れがテーブルの上にござった。穴があったら入りたい。Cさんに電話してお礼と、顛末を報告してお騒がせした事を詫びる。
by ruriwada | 2008-01-20 22:38 | Comments(0)